GPL準拠問題が原因でJoomla! プロジェクトが分裂の危機

 オープンソースCMS「Joomla!」のプロジェクトリーダーLouis Landry氏とその仲間たちは、愛するプロジェクトを守りたいのだ。その一心で彼らは今回、今までの2年間のプロプライエタリ・プラグインに対する容認方針を改め、Joomla!のライセンスであるGPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)への自発的な準拠をサードパーティの開発者たちに対して請うことを決断した。

 しかしサードパーティの開発者たちは、(あるプロプライエタリ拡張ベンダで働く開発者の表現を借りると)「いくつもの企業が何百万ドルもつぎ込んだ」後にJoomla!が方針を覆すのはフェアではないと訴えている。Landry氏によれば、Joomla!チームがこれまで例外を容認してきたのは誤りであり、Joomla!のオープンさを法的に保護するためにはGPL準拠への仕切り直しが必須なのだという。

 Joomla!は、Mambo CMSのフォークとして2005年に誕生した。Joomla!コア開発チームの全員とサードパーティ開発者の多くがMamboコミュニティを去った理由は、Mamboのスポンサー企業であるMiro社がMamboコードのクローズド化を計画していると考えたためだ。その後Joomla!の開発者たちは、Joomla!の支援と保護を唯一の目的とする非営利組織OSM(Open Source Matters)を設立した。OSMは、フリーソフトウェアプロジェクトの運営、とりわけJoomla!のように以前の親会社からの法的な要求に対し警戒する必要のあるプロジェクトの運営という、あいまいで複雑な活動を進めていく手助けを得るために、SFLC(Software Freedom Law Center)のサービスを受けた。

 SFLCの弁護士であるJames Vasile氏によると「OSMに、Mamboとの分裂を問題なく行なうことを助けて欲しいと頼まれたので、確実に法的にまったく問題ないように分裂を実現した。Mamboがコードに対し法的な権利を主張するだろうし分裂はうまく行かないだろうという声もあったが、そのような問題がまったく起こらないように分裂させた」とのことだ。

 Joomla!のコア開発チームがMamboから持ち込んだものには、コードベースの他にも、GPLに準拠していない拡張の容認ということがあった。サードパーティ開発者の多くは、Joomla!がここまで普及した理由の一つはその容認にあったと考えている。Joomla!コアチーム宛ての公開文書の中でJCDA(Joomla商用開発者同盟)は次のように述べている。「Joomla!が、ウェブサイトを構築するための実用的で高機能で安定したプラットフォームとして、インターネット全域で人気を確立することができた理由の一つは、Joomla!で利用可能な非常に多くの拡張の存在にあるということは、Joomla!コミュニティにおいて広く認められているところである」。

 Joomla!はどうやら開発者たちに好景気を生み出していたようだ。その理由はほぼ間違いなく、プロプライエタリ拡張をJoomla!が容認していたからであり、またそれによって、安価で便利なアドオンを渇望する客層を見い出した企業家を引きつけることができていたからだろう。自分たちには非GPLアドオンを開発する権利があるというサードパーティ開発者たちの立場をさらに強固なものにしているのは、Landry氏たちが、プロプライエタリ拡張を許容するかどうかの決定権は自分たちJoomla!プロジェクトにあるということをJoomla!フォーラムにおいて明示的に宣言していたことだ。2006年6月の「1.5のライセンス変更についての説明」というトピックにおいてLandry氏は、Joomla!バージョン1.5のライセンスでは「Joomla!をプラットフォームとして使用している商用サードパーティ開発者が、GPLでリリースしなければならないという心配をすることなく確実にJoomla!を使用することができるようにする」と明記していた

 今年4月には、すでに多くの順調なビジネスのベースとなっている拡張やテンプレートがJoomla!のGPLライセンスに違反していることについての懸念がコア開発者たちの間でますます大きくなり、そのことに焦点が当てられた議論がJoomla!フォーラムで行なわれた。Landry氏によると、「そのことはいつも僕らの心の片隅に引っ掛かっていた。自分たちの法的な立場がはっきりとは分かっていなかったことで、僕らの多くが不安を感じていた」とのことだ。Landry氏はまた、他のオープンソースCMSプロジェクトではサードパーティ開発者がプロプライエタリ拡張を販売することが容認されていないということから目を逸らすわけにもいかなくなってきたとも述べた。そこでJoomla!バージョン1.5のリリースに向けての開発と並行して、Joomla!開発チームのメンバーは、GPLが本当に非フリーのアドオンを容認しているのかどうかをVasile弁護士に尋ねてみることにしたのだという。

 Vasile弁護士は「彼らは2ヶ月に一度というペースで少しずつ作業を進め、状況を改善させようとしている。これまでにはコミュニティ内でのGPL準拠率を上げることなどについて話し合った」とする。またJoomla!のコアチームはしばらくして「GPL問題」を抱えていることは認識するようになったものの、その問題にどう対処すれば良いのかについてはまだ分かっていなかったという。「どのような選択肢があるのかを彼らに分かりやすく説明すると、彼らは自発的な準拠を促すという方向で進めることに決め、またそれと同時に、GPLに準拠するために必要なことを人々に教えていきたいと希望していた」。Vasile弁護士によるとJoomla!のコア開発者たちはGPLを完全には理解していない状態でプロジェクトを開始してしまったが、「現時点では開発チームはGPLをよく理解している。私も指導に努めたとは言え、彼らのほとんどは自分たちで調べて勉強していた」とのことだ。

 拡張を販売しているサードパーティ開発者の中には、拡張のソースコードをGPLでリリースすることをJoomla!が強制しようとしていると考えて憤慨している人もいる。Joomla!のプロプライエタリ拡張を販売する開発企業iJoomla社を経営するMerav Knafo氏は「Joomla!コアチームは彼らのアナウンスは議論の始まりだと言ったが、われわれにとっては議論の終りのように思われた」と述べている。Knafo氏は、非GPL拡張を容認すると明記された付加条項が存在し、Joomla!のライセンスにも付属し、ウェブサイト上でも公開されていたのだが、最近コアチームが誰にも何の説明もなく削除してしまったと主張している。「コアチームは今、そうとは知らずに、われわれに違法行為をさせようとしている。このような状況を正すためには、彼らが付加条項を戻す必要がある」。

 なおVasile弁護士は、これまでにリリースされたJoomla!のどのバージョンにも「付加条項が付属されていたことはない」としている。

 Landry氏は、Joomla!をGPL準拠に近付けるのはプロジェクトを守るためだということをサードパーティ開発者にも理解して欲しいと考えている。「ライセンス違反を見逃すということは、自ら法的に弱い立場に立つのと同じことだ。仮にこの先誰かがJoomla!のライセンスの有効性を疑うようなことがあったとして、その時Joomla!がプロジェクトとして故意に違反を見逃してきたのであれば、『(Joomla!のライセンスが無効であるということと)同じではないか』と言うことができてしまう」。Landry氏によるとこれまでにも、例えば単にJoomla!のコードベースをコピーして新たな名前を付け、商用製品としてリリースしようとする試みが幾度かあったという。Landry氏は「そのようなことは明らかに容認できない。しかし僕らがライセンス違反を見逃せば見逃すほど、Joomla!はどのみちライセンスを施行していないではないかと主張する余地をそのような人々に対して与えてしまうことになる」と述べている。

 一方Knafo氏は自社の拡張のライセンスを変更することには激しく抵抗している。Knafo氏によるとコアチームは自分たちがサードパーティ開発者に対して何を言ってるのか分かってないのだという。「われわれは自社のソフトウェアを決して、絶対に、GPLにはしない! Joomla!のコア開発者たちは若過ぎて、実社会での経験があまりないのだ。彼らは実社会がどのような仕組みになっているのか理解していない。実社会では、何らかの埋め合わせがない限り、誰も彼らが求めているようなことはしない」。

 Knafo氏によると彼女自身を含めサードパーティ開発者は現在、あらゆる選択肢を検討しているという。「商用開発者にフレンドリーなフォークを作成するという提案が数多く行なわれている。実際にそれを行なうと、フリーな拡張がたくさんあるが商用拡張はないJoomla!と、商用拡張をサポートしているフォークとが存在することになり、これはJoomla!にとっては非常に良くない状況になり得る。しかしJoomla!コアチームがわれわれに他の選択肢を与えないのであれば、われわれはそれを実行する。Joomla!にはすでに大変な労力を費やしてきたのだから、われわれはJoomla!のビジネスを維持したいと考えている」。

 Landry氏は、ライセンス変更が起こるかもしれないということによってサードパーティ開発者たちが不安を感じていることについては気の毒に思っているという。「このことは長い時間をかけゆっくりと進めていくと僕らが言ったのは、それも一つの理由だった。完全に変更しろと、突如として言い出すようなことをするつもりはない。彼らを追い詰めようとしているわけではない」。Landry氏は、Knafo氏のような見解はJoomla!がサードパーティ開発者から受け取った反応の中でも最も極端なものだという。「サードパーティ開発者の多くは僕らの友人だ。一部の人たちが本当にひどい言葉を言ったりつらく当たったりするのを見ると本当にショックだ。しかし正直に言って、なぜ彼らがそれほど脅威を感じているのかよく分からない。彼らが突如としてあたかも僕らが攻撃体勢でいるのかのように感じ始めたことに、むしろ僕の方が動揺している。僕が繰り返し言っていることの一つに、Joomla!は完全に平和的なプロジェクトだということがある。僕らは誰も追い詰めようなどとはしていない。僕らみんなが親しみ愛しているプロジェクトをみんなで守るために、自発的に準拠してもらえないかと丁寧に頼んでいるだけだ。これ以上分かりやすく説明することはできない」。

Linux.com 原文