有毒なコンピュータ廃棄物の不正輸出が拡大中

 あなたの使用済コンピュータ機器は廃棄後どうなるかご存じだろうか。その答えには驚かされるかもしれない。というのも、あなたはリサイクルに出したつもりであっても、そのような古いハードウェアは国際法を完全に違反して発展途上国に向け出荷されることも多いというのだ。その後、利用価値のある部分は――安全対策なしに――地元住民によって日に何セントかを得るために取り出される。そして地元住民たちは、鉛、ベリリウム、水銀、カドミウム、臭素化難燃剤などの様々な有害物質にさらされているのだ。

 このような行為は10年以上も前から禁止される予定となっていたのだが、その後も継続して行なわれていて、現在ではさらに増え続けていると思われる。中でも最大の違反国は、北米、日本、韓国だ。解決法は存在し、フリーソフトウェアもその小さな一部となっているが、それらはまだうんざりするほどゆっくりとしか実行されていない。

 シアトルを拠点とするBasel Action Networkのような小規模なグループを除いては、このような現状を調査している組織はほとんどなく、また政府やリサイクル業者も不正取引同然のことを公表したがるということはない。さらに一般メディアではほとんど取り上げられることがないため、このような問題の存在を知っている人さえ極めてわずかだ。

 Basel Action Networkは、環境保護運動団体「グリーンピース」の元ディレクタであるJim Puckett氏によって設立された。「Basel Action Network」という名称は、有害物質の輸出禁止を目的とする1989年のバーゼル条約から取られたものだ。しかしバーゼル条約では、グリーンピースや発展途上国やヨーロッパ諸国の努力にもかかわらず議論の際に骨抜きにされてしまった結果、有害物質の輸出が禁止される場所は人がほとんど住んでいない南極大陸だけとなっている。そして有害物質の輸出禁止の代わりとして、有害物質を持ち込まれる側の国々と運搬途中のすべての寄港地とが受け入れに同意した場合に限り有害物質の輸出を許可する「Prior Informed Consent(事前通報同意)」という規制が実施されるようになった。なお米国は条約に署名はしているが批准はしていない。

 1995年のバーゼル修正条項はより包括的なものになっていて、有害廃棄物の輸出を完全に禁止している。しかしPuckett氏によると、条項の表現上の曖昧さのために、少なくともその後さらに5年間は批准が遅れることになったという。一つの解釈としては、最初に署名した国々の3分の2が批准しているので、修正条項にはすでに効力があるはずなのだ。しかし一方で実施を遅らせようとしている国々は、後から署名した国々も含めて、すべての3分の2(より大きな数であり、まだ到達していない)が批准するまでは修正条項には効力がないはずだという解釈を貫いている。

 一方、ほとんどのヨーロッパ諸国と発展途上国では、バーゼル条約とその修正条項とを自国の法律において考慮し始めているが、他の国々はあからさまにその趣旨を無視している。例えば日本は、マレーシアやフィリピンなどのアジア諸国と投棄に関する協定を二国間で結ぶべく交渉中だ。そこまで露骨ではないものの、カナダと米国も、法律上の用語の定義を変えることによって投棄の禁止を回避しようとしている。

 Basel Action Networkの有害物質調査アナリストSarah Westervelt氏によると、カナダではハイテク機器は機能するかどうかには関わらず、分解されたものだけが廃棄物とみなされるような定義になっているという。同様に米環境保護庁もバーゼル条約による有害廃棄物の定義を無視して、まだ経済的価値を有するということから、回路基板などを有害廃棄物には該当しないものとみなしている。その結果、受け入れ諸国の抗議にも関わらず(受け入れ諸国は独自の法律を実施するためのリソースを持たないことが多い)、ハイテク廃棄物は海外に出荷され続けている。

 Puckett氏は、「どこかの国がアメリカに対してそのようなことを行なったら、おそらく戦争になるだろう」と述べている。

海外での証拠

 E-waste(電気電子機器廃棄物)の廃棄についての情報のほとんどは、ハイテク廃棄についての文書をまとめた数少ない北米の機関であるBasel Action Networkが行なった調査がソースになっている。Basel Action Networkは様々な非営利組織からインドとパキスタンにおける投棄についての報告も受け取ったが、最も詳細な情報は中国とナイジェリアからの報告だ。

 Basel Action Networkは2001年12月に中国広東省潮州の貴嶼という村の状態を文書にまとめ、映像とともに「Exporting Harm: The High-Tech Trashing of Asia(危害の輸出:アジアのハイテクごみ)」と題したエッセイ(PDF)を出版した。この報告は包括的な調査結果という位置付けのものではなく、一例の報告に過ぎないが、中国全土のどこでも同じような光景が見られることだろう。

 同報告によると、廃棄されたコンピュータ機器はトラックで村まで運ばれて通りに投げ捨てられ、そしてその場で元は農民であった人々やその子供たちが機器から利用可能な部分をすべて回収するという仕事を日に1.5ドルで行なっているという。回収の方法は通常、回路基板を焚き火にかざして鉛とはんだを回収したり、貴金属を取り出すために熱した酸に浸けたり、呼吸用のマスクを付けずにプリンタのトナーカートリッジからカーボンを取り出したりするといったようなものだ。燃え殻は地元の養魚池を含む村の土地の一部にばらまかれ、地元の水のサンプルは、WHOのガイドラインで安全とされている最大値よりも190倍も高い濃度の鉛が含まれていることを示したという。

 このような状況がどれほど広がっているのかは明らかにはなっていない。Puckett氏によると、そのようなリサイクル集積所は中国全土に散らばっているため、あまり注目されることはなく、また当然のことながら外国人の移動も中国内では厳しく制限されているとのことだ。しかし口伝えの証言によると、そのような集積所は実際に数多く存在し、廃品回収ビジネスも繁盛しているのだという。

 「Exporting Harm(危害の輸出)」報告が出版されて以降、中国政府は取引の禁止に取り組んでいるが、二次的な報告やその後の訪問などによると「むしろ拡大している」のだという。Westervelt氏は、中国政府と地方政府との間にあまりつながりがないことと、また、社会的な腐敗と地元の職に対する要求とが、このような仕事がなくならない大きな原因だと指摘した。

 中国の海岸線が長く巡察が困難であることと、中国全土に廃棄物を持ち込むことができる香港の特殊条例もまた、取り締まりの執行をさらに複雑にしている。Puckett氏によると貴嶼では現在、「有害廃棄物の輸入は不法行為である」と告知する横断幕が大通りに掲げられているのだが、しかしそれでも、積み荷を投げ下ろすトラックは跡を絶たたないのだという。

 Basel Action Networkが発行したナイジェリアのラゴスの状況を伝える報告書「The Digital Dump: Exporting Re-Use and Abuse to Africa(デジタルごみ投棄:再使用物と虐待をアフリカに輸出)」では、リサイクルではなく再使用の目的でナイジェリアに輸出されたハイテク廃棄物であっても、中国と同じような問題の多くが存在することが指摘されている。廃棄物を購入した人々は、少なくともその75%は使用不可能だったと報告している。そのため廃棄物は結局、地元のごみ埋立て場で焼却されるのだが、その際に有害な煙を発し、地元の動物や子供やその地区を回る廃品回収者を危険にさらしているのだという。中国の場合と同様に、ナイジェリア政府もまた熱心にそのような行ないを止めさせようとしているのだが、Puckett氏によると、それがただ継続されているだけでなく、ケニアなど他のアフリカ諸国にも拡大している証拠が存在するという。

 E-wasteがどこから来ているのかについて、正確に把握するのは困難だ。その理由はただ単に、投棄が上記の通り広範囲で行なわれているためだ。とは言え、機器に残っている識別タグの情報から判断すると、米国、日本、韓国などの先進国の学術機関、政府機関、企業などから来たものであることが分かるという。ナイジェリアではイギリスとドイツからも廃棄物が届いているが、最近EUの関税規則が強化されたことから、それらの国々からの廃棄物は今後はなくなるかもしれない。一言で言えば、投棄があまりにも広範囲で行なわれているために、出所に関する傾向を把握することは不可能であり、多くの産業国で単に普通の行為になってしまっているようだ。

解決法を探して

 Puckett氏はこの問題に対する3つの解決法を普及させようとしている。すなわち、輸出をやめる(法的/実際の行為上の)取り組み、有害廃棄物を出さないハードウェアの開発促進、フリーソフトウェアを使用してコンピュータ機器を延命させるといった方法によるハードウェアの旧式化の緩和だ。

 ITマネージャや一般消費者は、いくつかの具体的なステップを実行することで上記の方法を手助けすることができる。まず始めに、自社製品から有害物質をできるだけ排除しようとしているメーカーからハードウェアを購入し、なぜその会社の製品を選んだのかをその会社に伝えるようにしよう。その際には、最近発行されたグリーンピースによる報告を参考にすると良いだろう。

 グリーンピースによると、そのような取り組みに関して最高ランクにあるメーカーはNokiaとDellだ。Nokiaは2006年に製品からPVC(ポリ塩化ビニール)を排除し、そして臭素化難燃剤をその翌年に排除した。Dellも同様の物質を製品から排除することに関して野望的な目標を掲げている。なおランキング最下位はMotorolaとLenovoだった。また全メーカーの平均は、10点満点中4点に留まった。

 ITマネージャと消費者に実践することのできるもう一つの具体的な方法は、ハイテク機器の入れ替え時期を遅らせるということだ。Puckett氏によるとコンピュータ機器の寿命は5年から7年程であるのに対し、現在ではたった2年で新しいものに入れ替えられてしまうことも多いという。このような旧式化は、機能上や性能上の見返りがほとんどなくてもハードウェアのアップグレードを要求するWindows Vistaのようなソフトウェアが動因となって起こることが多い。

 したがってソフトウェアの新版を何も考えずにインストールするのではなく、コストと利点を調査し、古いソフトウェアをできるだけ長い間使い続けるようにしよう。さらにステップアップして、GNU/Linuxのようなフリーのオペレーティングシステムの使用も検討してみよう。フリーのシステムは、同種のプロプライエタリなシステムよりも要求するリソースが少ないことが多い。また通常のオフィス用途に関しては、古い機器の寿命を延ばす方法としてシンクライアントの利用も一つの手かもしれない。以上の解決法には、ただでさえ限りのあるIT予算を長くもたせることができるというさらなる利点もある。

 さらにITマネージャと消費者は、古い機器のリサイクルを慎重に行なうようにしよう。Westervelt氏は、業界に詳しい人から聞いた話だがとしたうえで、北米のリサイクル業者の少なくとも半数以上が回収した廃棄物を海外で投棄していると指摘している。リサイクル業者を調査するのは時間がかかり困難でもあるため個人で行なうのは無理だが、e-Stewardリストという、信頼のおける廃棄物投棄方法を行なっていると思われるリサイクル業者のリストをBasel Action Networkが管理している。このリストは、リサイクル業者のビジネスパートナーに対して聞き取りと調査を行なった結果に基づくものだ。

 このリストは非常に役立つものだが一部の地域の情報が不足しており、特にカナダとアメリカ東海岸についての情報が少ない。そのような地域の消費者は、口を堅く閉ざす可能性のある業者に対して質問することくらいしかできない。しかし幸運にも、倫理的なリサイクルはFree Geekの目的の一つであるため、今後多くの場所でFree Geekの支部が解決法を提供してくれるかもしれない。

 最後に、特に関心を持った人は、Basel Action Networkのようなグループに関わったり公選の公務員に対してロビー活動をしたりといった社会活動を行なうことも考えてみよう。というのも公選の公務員には、取引全般を禁止することだけでなく、EUで実施されたようにメーカーに自社製品の廃棄の責任を負わせるというような法案を実現に近付けることもできるからだ。この問題は複雑であり、改善には長い時間がかかるかもしれない。しかし企業や国家が環境保護主義であることを示したがっている今日では、解決の可能性はかつてなかったほど高まっているように思われる。

IT Manager’s Journal 原文