SFLCがFOSSプロジェクトのための法律ガイドをリリース

 コピーレフトの考え方からコミュニティプロジェクトの法的立場に至るまで、FOSS(フリー/オープンソースソフトウェア)では法的な問題が次から次へと持ち上がってくる。しかしそのような法的問題の多くはコミュニティ界隈に広がる噂や誤解に基づくものだ。ソフトウェアプロジェクトを運営する人々が持つそのような誤解を減らすためにSFLC(Software Freedom Law Center)は、自由に配布することのできるガイド「 A Legal Issues Primer for Open Source and Free Software Projects 」をリリースした。このガイドはたった45ページと短い(目次などを除けばさらに短い)が、FOSSの法的な問題についての非常によくまとまった入門書で、対策としての選択肢が熟慮の上に簡潔にまとめられているのに加えて、実用的な助言も多数掲載されている。

 この法律ガイド作成プロジェクトを取りまとめたSFLC顧問弁護士のJames Vasile氏は、次のように述べた。「実はわれわれはこの法律ガイドに2年前から取り組んでいる。SFLCが時間的な限界から個別に対応することの難しい、あらゆる人々に対して情報提供を行うためのアイデアとして、SFLC内では前々から温められていた」。

 さらにVasile氏は次のように述べた。「SFLCに助けを求めてくる人々は、SFLCに来た時点ですでに、いくつかの誤りをおかしていることが多い。物事の進め方についての誤解がややあるため、すでに間違ったことを行ってしまっているのだ。そのためSFLCでは、いくらかの情報を前もって公開しておけば、人々はもっと準備周到な状態でフリーソフトウェア界で活動を始めることができて、結果的にはSFLCの助けが必要になることさえなくなるかもしれないと考えた。またSFLCにやって来ることがあったとしても、その時にはすでに適切な知識を身に付けていて、SFLCに何を頼めば良いのかをきちんと把握しているという、より望ましい状態にあることになるだろう」。

 今回リリースされたガイドは、SFLCの各弁護士がそれぞれの章を執筆した後Subversionレポジトリに置き、全員で協力して改訂した。Vasile氏によると「どの章にも全員が大きく貢献した。各章に個々の執筆者の名前がないのはそのためだ。SFLCではこのガイドを法律事務所全体による作品だと考えている」とのことだ。

各章の内容

 ガイドの各章は、著作権/組織的な問題(法人化するかSoftware Freedom Conservancyに参加するかなど)/特許に対する自衛/商標にまつわる事項を扱っていて、プロジェクト運営者にとってそのような情報が必要になるだろうと思われる順に並んでいる。そのため、何らかの決定を行う前に考慮すべき事項をこれほど数多く紹介している文書にも関わらず、ほとんどの人は一度に7、8ページ以上を理解する必要はないだろう――これは嬉しい点だ。

 このガイドがどれほど綿密に作成されているかの例としては、組織的な問題を扱う第2章を挙げることができる。この章はわずか8ページしかないのだが、あり得る組織の形態――法人、非法人組織、非営利組織、(Software in the Public Interestなどのような)下部組織を傘下に抱える親組織――を取り上げたうえで、どのような場合に法人化するべきなのか、法人化する場合に必要となる書類と組織体制、法人化することによって制限される可能性のあるプロジェクトの活動(政治的なロビー活動など)について簡潔に説明している。それらの各点については徹底的に詳細に議論されているのではなく、プロジェクト運営者が考えておく必要のある事項と必要な手順とが簡潔に提示されている。

 ガイドは、読み手が予備知識を持っていることを前提としていない。例えば著作権についての章は「(ファイルに保存された瞬間から)すべてのソフトウェアは著作権法の対象となる」という説明から始まっている。同様に商標についての章も「商標の目的は製品の出所を明らかにすることである」という文から始まっている。このような説明はわざとらしい印象を与えることもあるかもしれないが、法的な詳細に入る前には、明白な事実を記述しておく方が良いことも多い。

 さらに言えば法的な文書においては、明白な事実のように思われることが実はそうではないという場合も多々ある。例えば特許法における「selling」という言葉が金銭の受け渡しがあるかどうかには関係なくあらゆる形式での配布のことを意味するということを知っている人は、弁護士以外にどれほどいるだろうか。そのような基礎知識を持ち合わせていない場合には、考慮すべき事項についても誤った理解をしてしまう可能性が高い。しかし嬉しいことにSFLCは首尾一貫して抜かりなく、読み手が理解しておく必要のある事項が何かを的確に把握している。

 フリーソフトウェアプロジェクトが法的な問題に直面するようになってきた昨今の情勢を考えるとおそらく期待通りのこととして、ガイドにはプロジェクトの代表者が取るべき行動についての実用的な助言が数多く含まれている。例えば著作権侵害と思われるケースの対処法についての説明の中には、まずは侵害者と協力しようと試みるべきだという助言がある――これはFSF(フリーソフトウェア財団)とSFLCが何年間にも渡って数えきれないほどの侵害の調査を行ってきた結果から導き出された結論だ。ガイドには「丁寧な、しかし断固とした態度で。ライセンス違反は故意でない場合が多い」とある。また、目的がラインセンスの準拠であり損害賠償の要求ではないということを侵害者に理解してもらうことができれば、問題解決に至る可能性が高くなるという助言もある。

 同様に特許の説明では、特許の調査についての実用的な助言もある。例えば、開発者には特許がカバーしている範囲を実際よりも広く見積もってしまう傾向があるためや、米国の法律がソースコードとオブジェクトコードとを区別しているという思い込みなど特許に関する数多くの誤解が存在するためなどの理由から、自分のソフトウェアが侵害している恐れのある特許について開発者が前もって調査する場合には気を付けるようにとの警告がある。またプロジェクトが自ら特許を取得することに対しても、その過程において必要となる費用という観点からの警告がある。さらに、万が一特許を調査する必要が実際に生まれた場合でも、まずは特許の最後にある請求項と、出願書類に付属している特許出願者と特許審査官とのやり取りの記録――特許に制限が付いている可能性についての情報を見つけるため――とを調べることを推奨している。また特許侵害に問われた場合に有効となる可能性のある抗弁として、新規性の欠如、自明性、特許の失効などが挙げられている。これらの点は簡潔に概説されているだけだが、そのような問題についての認識を高めるのに非常に役立つはずだ。実のところこのガイドは、ガイドが扱っている分野での経験がいくらかある人にとっても、考慮すべき様々な事項が極めて分かりやすく整理されているので眺めておくだけでも非常に役立つだろう。すでに持っていた知識にいくつかの穴があることを――私がそうだったように――発見するかもしれない。

注意事項

 「A Legal Issues Primer for Open Source and Free Software Projects」は必ずしも読みやすい文書ではない。弁護士によって書かれた他の多くの文章と同様に、このガイドも長くて複雑な文が多い――込み入った内容を要約しようとしているために、その傾向が余計に強調されているのかもしれない。またPDFファイルとしても配布されているものの、印刷することを前提として作成されているので、説明している内容についての詳しい情報源などへのリンクが含まれていない。さらに言えば、今後の改訂版では、各章についてのオンライン資料のまとめがあれば便利な付録になると思う。

 米国外の人々は、このガイドが米国法のみを対象としているという点に留意しておくべきだろう。ガイドの大半の情報は、どの国を拠点としているかに関わらず有効であるはずだが、特に特許に関する章では、細部において国によってガイドの内容とは異なることがあるかもしれない。

 またこのガイドは網羅的というわけではない。例えばBSD系のライセンスについての説明や、LGPL(GNU劣等一般公衆利用許諾契約書)やAffero GPLといったGPL(GNU一般公衆利用許諾契約書)の変種についての説明はあるが、Apache Licenseについては触れられておらず、またGPLバージョン2とGPLバージョン3との違いについても少ししか記述がなかった。

 以上の点を除けば、今回リリースされたバージョンのガイドはフリーソフトウェアの法的な問題についての入門書を必要としているすべての人にとって一読の価値のある文書だ。そしてガイドは今後もますます改善していくようだ。Vasile氏は次のように述べた。「この文書は継続的な取り組みなので、今後も章を追加していくつもりだ。ライセンスや著作権法やプロジェクトに寄与されたコードを受け取るための手続きなどをより多くカバーするための追加をすでに検討しているが、さらに扱って欲しい具体的な質問などがあれば、いつでもメールを受け付けている」。

Bruce Byfieldは、Linux.comとIT Manager’s Journalに定期的に寄稿するコンピュータジャーナリスト。

Linux.com 原文