宣誓供述書がTrend Microのゲートウェイ・ウィルス・スキャン特許に異議申し立て

 スウェーデンの開発者であり起業家のGoran Franssonが、Barracudaに対するTrend Microの訴訟で宣誓供述を行った。これは、Trend Microが持つゲートウェイ・ウィルス・スキャンに関する特許にとって大きな打撃となりそうだ。

Trend MicroがBarracuda Networksを相手どって米国際貿易委員会(ITC)に提訴したと報じた翻訳記事)。Barracudaはフリーソフトウェアのセキュリティー・アプリケーションであるClam Antivirus(ClamAV)を配布しTrend Microの特許5623600を侵害したというのがTrend Microの主張だ。この特許は1995年9月26日に申請され、その後SymantecやMcAfeeなどの企業に対して威力を発揮してきた。この訴訟がITCで審理されているのは、ClamAVは世界中のプログラマーによって開発されたのだから米国にとっては輸入ソフトウェアに当たるとTrend Microが主張したためらしい。

 Franssonがこの訴訟で証言を求められたのは、TenFour Swedenとその後継企業で技術面の立役者だったからだ。Franssonによると、TenFour Swedenは1997年頃までインターネット・メール・システムでは主要企業の一つであり、最盛期にはスウェーデン、英国、北米を中心に13,000を超える顧客を擁していたという。そのTenFourが1995年1月にリリースした主力製品TFS Gateway 2.1にゲートウェイ・ウィルス・スキャンが含まれていた証拠があるとFranssonは主張している。

 話はBarracudaが提訴された時点に遡る。防衛のため同社は先行技術の探索でフリーソフトウェア・コミュニティーに支援を求めるという異例の策をとった。この訴訟はフリー・オープンソース・ソフトウェアばかりかインターネットのセキュリティーにも影響しかねないことから、コミュニティーは熱心にこの要請に応えた翻訳記事)。

 そして、コミュニティー・メンバーからもたらされたのがTFS Gatewayについての話だ。Barracudaは、かつてTFS Gatewayを配布していた米国企業FoxTに接触し、Barracudaを担当するWilson Sonsini Goodrich & Rosatiの弁護団が、FoxTを通して、Human BrothersのFranssonを突き止めた。Human BrothersはFranssonが現在経営している会社で、FoxTと取引があった。

 Franssonは証言に同意した理由を3つ挙げている。まず、「事実を明らかにするためにできることがあるなら喜んでする」ということ。

 もう一つは、長年業界で過ごしてきた専門家としての憂い。セキュリティー業界は内輪もめに時間を浪費するばかりで、予防の必要性を人々に説いたり一般の人が簡単に使えるソフトウェアを開発したりするためには十分な時間をかけていないというのだ。

 「セキュリティー業界はもう互いに争うのをやめ、共通の目的のために協力すべきだ。だから、Barracudaのように、インターネットにとって有意義なことをしようとする企業を見ると嬉しくなる」

 最後のそして最大の理由は、OpenSSLのオリジナル開発者であるEric YoungとTim Hudson、SendmailのEric Allmanと仕事で関わったことがあり、それ以来フリーソフトウェアの信奉者になったことだ。

 Franssonが関係してきた企業がすべてフリーソフトウェアを扱っていたわけではない。しかし、Human Brothersは現在Zimbraと協力している。そこで知ったのは、Microsoft Exchangeのサポートにまつわるライセンス問題はほとんど解決不能だということだった。

 「(宣誓供述は)一企業を支援する以上のこと、それよりはるかに大きなことだと思い当たった。問われているのは理念だ。オープンソースの理念が一企業によって脅かされている。私はこれまでさしたる貢献はしてこなかったが、こういう形で貢献を始められたのはよかったと思う」

Franssonの証言

 Barracudaの弁護団から事情を聞いたFranssonは地下室で古い資料を探した。「95年1月に出した製品のソース・コードやマニュアルの原本、パッケージの箱やフロッピーもあった。製品はインストールできたし、実際に動きさえした。ウィルス・スキャンなど、1995年9月の特許5623600でTrend Microが初めて行ったと主張していることのすべてを動かすことができたのだ」

 Franssonには、その前のバージョンにもウィルス・スキャン機能が搭載されていた記憶がある。しかし、証拠を示せたのは、TFS Gateway 2.1にウィルス・スキャン機能があったということまでだった。「1月1日から適用される価格表を見つけたのだが、そこにバージョン2.1が記載されている」

 Franssonは、先月、カリフォルニアに飛んだ。そして、2日間ほどBarracudaの弁護団と相談したのちITCで宣誓供述を行った。審理中の訴訟における証言であることを理由に、その詳細を明らかにすることにも証言記録を送付することにも応じなかったが、一般論として次のように説明し、宣誓供述の概要を話してくれた。TFS Gatewayは「メッセージングを通して入ってくる添付ファイルに対してウィルス・スキャンを実行するフックを持っていた」こと。また、MIMEsweeperなどの他社製品も同様の機能を備えていたこと。また、具体的にソース・コード中のスキャン機能を実行する部分と、顧客にウィルス・スキャンを設定する方法を説明したマニュアルのページも示した。

 さらに、TenFourのサポート・データベースに入力されていた登録日の情報から、Trend Microが特許を申請した1995年9月26日以前に米国企業380社がTFS Gatewayを使用していたと証言した。

これから

 Franssonの宣誓供述は、それだけで、Trend Microの訴訟と特許を粉砕するのに十分かもしれない。しかし、Franssonは、次の活動はTenFourの顧客だった米国企業のうち現在も存続している社を捜すことだと言う。

 「私にも製品の使い方について一般情報を提供することはできるだろう。しかし、詳細は覚えておらず、1995年当時この顧客はこのように使っていたと具体的に話すことができない。自分が話した顧客は一部覚えているが、電話の日付などは覚えていない」

 問題はそうした企業の多くが今では存在せず、話をした人の多くは13年の間に転職してしまっただろうということだと言いつつも、Franssonは楽観している。「1995年1月1日から9月26日までの間に製品を買い使い始めた人、そういう人たちを探している」

 この調査で、Franssonは次のように注意した。「今では考えられないことがあった。93年にゲートウェイの仕事を始めたときのことだ。業界の人たちからゲートウェイと呼ばない方がよいと強く勧められた。当時は、ゲートウェイに悪い印象があったのだ。既存インフラストラクチャーに対する単なる付加物であり、一般に、問題を引き起こすだけのものという印象だ。みんな、ゲートウェイ概念を隠そうとしていた」

証言に対する評価

 Franssonは、証言以来、この訴訟の強力な支援者になった。Franssonの弁護士が訴訟の情報を知らせ、FranssonはBarracudaに有利な証拠を探し続けている。「調査によって、95年当時の状況が明らかになってきた」

 Franssonは一般論として「Trend Microが(ウィルス・スキャンを)最初に始めたというのはおかしい」と言う。Trend Microはともあれ提訴しているのだから、特許申請の内容に虚偽があることになる。Franssonは申請を詳しく調べてはいないが、そこに含まれている技術の説明は「非常に奇妙」であり、言及されているゲートウェイがハードウェアかソフトウェアかあるいはそれらの組み合わせかが明確でないと言う。つまり、Trend Microの特許は生き延びるかもしれないが、Franssonの証言によって大幅に制限されるということだ。

 Franssonの証拠についてTrend Microにコメントを求めたところ、同社の代理人Michael Sweenyは「米国際貿易委員会で係争中だ。憶測や産業リポートには回答しない」とだけ述べた。

 一方、BarracudaのCEOであるDean Drakoは、Franssonの証拠を有意義なものと見ている。「Goran Franssonがこの非常に重要な先行技術について話すためにわざわざ出向いてくれたことを大いに感謝する。Trend Microは不公正な特許クレームでBarracuda NetworksとオープンソースClamAVプロジェクトを提訴していると我々は考えている。その訴訟でFranssonの証言は我々に有利な手段となる。我々にとってFranssonはオープンソースの英雄だ」

Bruce Byfield コンピューター・ジャーナリスト。Linux.comに寄稿している。

Linux.com 原文