不用心な人々を狙うLinux Corporationの詐欺

 あなたの写真を購入したいと申し出るLinux Corporation代表と名乗る人物には用心した方が良い――それは詐欺だ。Rohan Patwari氏とPraveen Toshniwal氏の体験から考えて、インドのモデルやカメラマンは特に気を付けた方が良い。彼らの体験談は、フリーソフトウェアコミュニティ以外の人々に対してLinuxがいかに有名になったかと同時に、いかに得体の知れないものなのかも間接的に示している。

 Patwari氏とToshniwal氏は最近、それぞれ別々にLinux.comに連絡をしてきて、ほぼ同じ話をした。この二人はどちらも、Explocity.comにプロフィールを掲載している若い男性モデルだ。Explocityはインドの都市の合法的なポータルサイトなのだが、そこに掲載されているプロフィールがLinux Corporationと名乗る者によって二人を見つけるのに利用された可能性がある。

 Patwari氏とToshniwal氏の二人は、Linux Corporationの代理としてモデルのスカウトをフリーランスで行なっているというロンドン在住のDwight Franklinと名乗る人物から電子メールを受け取った。誤字脱字だらけのFranklinのメールでは、Linux Corporationは「有名企業」であり、「世界で最も優れたSMTP/POP3/IMAP/メールサービスプロバイダ/ウェブ開発企業の一つとして知られている」と説明されている。FranklinによるとLinux Corporationは、スクリーンセーバー、デスクトップ用壁紙、「Flash用テンプレートとウェブメール作成用背景」用として、一枚5,000ポンドで30枚の写真を購入したいということだった。

 Linux Corporationの連絡先は、linux.project@linuxmail.orgと、老舗のLinux Onlineサイトのサイト名を使ったlinux.online@linuxmail.orgとなっている。

 Patwari氏もToshniwal氏も、サンプルとして5、6枚の写真を送るように言われたため写真を送ると、Linux CorporationのプロジェクトコーディネータであるというGary Ackermanという人物から連絡があった。AckermanはPatwari氏にもToshniwal氏にも写真が「Linux Corporationの品質管理基準を満たした」と知らせてきて、その他の写真も送るように要求したという。

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Linux Companyを騙る契約証書

 Patwari氏とToshniwal氏は写真と引き換えに「契約証書」を受け取った。この証書は渦巻き模様で縁取りされていて、文頭にTuxとUnixのロゴ、そして文末に赤い証印がある。契約証書には、Franklinが述べた情報が繰り返し述べられているのに加えて、「Linux Company――Linux Corporationではなくなっている――はUnix Systemsの親会社」であるという説明や、「写真はオンライン・ポートフォリオ、アルバム、ギャラリー、アーカイブ用の目的で使用されることがある」、「写真がセミヌードやフルヌードに加工されることはない」といった情報がある。またGary Ackermanの署名と、「Approved(承認)」印で一部隠れているが「Peter J. Kinksky」と読むことのできる名前の署名がある。さらに、Linux Companyの所在地は「#90 Sloane Street, SW1, London」であり、同社のウェブアドレスはwww.linux.orgまたはwww.linux.com――ご存じの通り、Linux Onlineのサイトと、われわれのサイトのURLだ――となっている。

 Patwari氏とToshniwal氏は、契約証書に署名することと、各自のパスポートと運転免許証のコピーをファックスで送るように指示された。また支払いを受けるために、同社の口座があるHBOS(Halifax Bank of Scotland)銀行に連絡するようにという指示もあった。

 次に二人は、HBOS銀行の振替業務担当部長だというBill Pascrell, Jnr.と名乗る人物から電子メールを受け取り、連絡先はhbos.plc@financier.comだと告げられた。英文法の間違いだらけのこのメールの内容は、二人に支払われるべき写真の代金の小切手からの振替料と(送金のための)保険料の合計額――Patwari氏の場合は335ポンド、Toshniwal氏の場合は1,035ポンド――を支払って欲しいというものだった。

 そのような大金を支払いたくはなかったPatwari氏は、その料金分を小切手の額面から差し引いてもらうことはできないかと尋ねた。するとPascrellという署名のある電子メールがさらに届き、「国際銀行法により『保険のかけられた小切手からの差し引きはできない』とされている。理由は保険が小切手の額面に対してかけられているためで、振替による支払い額を小切手の額面よりも少なくすることができない。差し引きを行なった場合は保険証書が無効となり、したがって不運にも事故が発生した場合に賠償金が支払われなくなるため、あなたにとってのリスクとなる」との回答を得た。さらにPascrellは、「Linux Corporationの唯一の受託者」としてHBOS銀行には銀行内の同社の巨額の資金を保護する責任があるため、結果的に「HBOS銀行の振替料金を支払う責任はあなた一人にあり、また支払いは振替の後ではなく前に行なわれなければならない」としていた。

 一方Toshniwal氏の場合、振替料金に対する疑念をAckermannに打ち明けたところ、Ackermannは宅配便業者であるXpressのイギリス代理店の役員であるというFred Martinsと名乗る人物に連絡を取るように勧めた。そこでMartinsに連絡を取るとToshniwal氏は、速達にするかどうかなど小切手の配達日数に応じて350ポンドから910ポンドをXpressに宅配料金として支払う必要があると言われた。

 Patwari氏もToshniwal氏もこの時点で、何が起こっているのかを詳しく調べることにしたのだという。そして調べている過程で二人はLinux.comに連絡を取ることにした(そしてその後、二人はLinux Corporationとその代表者たちとのやり取りのコピーを提供してくれた)。

 Toshniwal氏はわれわれに対し「少なくとも支払いをしてしまうところまで行かなくて私は幸運だった。(そうでなければ)大金を失っていたところだった」と述べた。

 とは言えこの二人がそれ以上のダメージを被る可能性も考えられる。Linux Corporationに身分証明書を送ってしまっているので、ことによるとID盗用の犠牲者になる可能性もあるためだ。しかしこれまでのところは、そのようなことは起こっていない。

詐欺の分析

 一見しただけでもPatwari氏とToshniwal氏の話には典型的な詐欺のやり取りの特徴が随所に現われていて、「419事件」とも呼ばれている、古典的な「ナイジェリアの手紙」タイプの詐欺に非常によく似ている。

 さらに言えば、形式的なことだけを見ても十分に疑わしい。多少の誤字脱字や文法の間違いはちゃんとした企業からの電子メールの中でもよくあることとは言え、二人が受け取ったすべての文書は例外なしに文章もスペルも構成もお粗末なものだった。実際のところ、これほど多くの間違いをおかすことのできる人々を公的に代表者とする企業があるとはとてもではないが思えない。また、これらの文書の中には何らかの情報を聞き出そうとする類いのものもあり、そのことによってもますます胡散臭く感じられる。

 さらには、Linux Corporationやその代表者に連絡を取るということは不可能であることが分かった。記者として名乗った場合も、匿名にした場合も、あるいは第三者を通した場合も、また、直接的な質問をした場合も、写真を売りたいモデルを装った場合も、私が送った電子メールに対して返事はなかった。連絡先として載っていた電話番号に電話もしてみたが、同様にうまくいかなかった。ただし一度だけ電話が繋がったのだが、すぐに切れてしまった。

 さらにそれ以外の方法を使って名前が登場した人物に連絡を取ろうとも試みたが、どれも成功しなかった。Dwight Franklinについては、モデル/カメラマン/エージェンシーのためのポートフォリオ掲載サイトであるPurestorm.comにも名前があったので問い合わせてみたのだが、それに対して返事はなかった。なおこれはおそらく偶然だと思うのだが、私がPurestorm.comにアカウントを開いてそのサイトに載っているFranklinに連絡を取ろうとした数分後に私のアカウントは停止させられてしまった。

 唯一得られた確たる供述はと言えば、HBOS銀行のメディア関連担当上級マネージャであるJason Clark氏によるものだけだ。同氏によると「Bill Pascrell Jnrという人物は実在しない。少なくともHBOSの社員の中にそのような人物が存在しないのは確かだ。その名前については、2、3日前にも問い合わせがあった」とのことだ。

 今回のケースについて独特な点として、それらしい雰囲気を醸し出すために使用されている専門用語の多さがあげられる。例えばDwight Franklinからの最初のメールでは、写真の著作権は「英国著作権評議会(British Copyright Council)が推奨する、英国企業問題委員会による企業提携関連法の規定に準拠することとする」という説明がある。英国著作権評議会は実在するが、インターネットで検索した限り、イギリスには企業提携関連法というものはなく、また英国企業問題委員会というものも存在しなかった。

 しかし興味深いことに、企業提携関連法はどうやらナイジェリアには実際に存在するようだ――さらにイギリスの所在地を掲載していることと、電子メールでの詐欺の拠点としてナイジェリアが悪名高いこととを合わせて考えると、詐欺師と思われる人々は国を離れてロンドンに在住しているナイジェリア人であるということなのかもしれない。

 同様に、よく使用される電子メール用プロトコルの名前が契約証書の中で引き合いに出されているのも、良い印象を与えるために行なわれたことのようだ。本物のインターネットプロバイダであれば、おそらくそのような名前をわざわざ列挙することはないだろう――しかし専門用語を使うことにより、インターネットについての技術的な知識を持たない人々に対しては、それらしい雰囲気を醸し出すことができるのかもしれない。

 とは言え、最も功を奏している専門用語はLinuxという名前だろう。この数年間でLinuxという名前は非常によく知られるようになったので、聞いたことがあるような気がする人も多いはずだが、ハイテク分野の人々以外でLinuxについて何らかのことを知っている人は比較的少ない。

 当然ながらPatwari氏もToshniwal氏も、Linuxについて詳しいことは何も知らなかった(また、何も知らないだろうと思われていたのだろう)。また二人とも、Linuxが電子メールサービスやウェブ開発と直接的な関係はないということに気付くどころか、Linuxが何であるのかやどのような成り立ちなのかについてもあまり知らなかった。GNU/Linuxがどのように成り立っているものなのかについて簡単に説明したところPatwari氏は「Linuxという名前は確実に聞いたことがあった。しかしLinuxオペレーティングシステムが、一つの企業によってではなく、ボランティアと複数の企業によって開発されているということは知らなかった」と述べた。同様にToshniwal氏も「Linuxというのは、Unixというオペレーティングシステムを作っている会社のことだと思ってた」と述べた。

 彼らが述べたようなことは、技術コミュニティには属していない、私の家族や友人が言うようなこととそれほど変わらない。このことはLinuxという名前を出すことが、このような詐欺を行なうにはもってこいであるということを示している。すなわち、それらしい印象を与える程度によく知られた名前ではあるが、説明された使用方法について疑問を持ったり、一企業によって開発されているのではないという点に気付いたりすることができるほど詳しい人はそれほど多くはいないということだ。

 Toshniwal氏は「このような詐欺を計画して私利私欲のために罪のない人々を罠にかけるような人たちは、イギリス政府やインド政府が厳重に取り締まって欲しい」と述べた。しかしそれが実現する可能性は低いだろう。その理由は主に、連絡先の名前や情報がすべて間違いなくでたらめであるためだ。彼らが活動に使う情報の詳細をすでに変更しているであろうことは疑うべくもない。とは言え彼らが実際に変更するまでは、以上のような名前と詐欺には気を付けるようにしよう――そして、忘れないように。あり得ないほど良い条件だと感じるオファーは、実際のところおそらく、あり得ないのだ。

Linux.com 原文