かわいそうなマイクロソフト、言いたいことも伝わらなくて

そもそもの発端は、昨晩遅くに とあるアサヒ・コムの記事を見たことだった。「ウィンドウズの『設計図』 公開へ マイクロソフト」と題されたその記事には、こう書かれていたのである。

米ソフトウエア最大手マイクロソフト(MS)は21日、同社の基本ソフト(OS) 「ウィ ンドウズ」などの設計図にあたる「ソースコード」を社外のソフト開発者らに も公開すると発表した。同社はこれまで一部情報の公開にとどめてきたが、こ の方針を大きく転換するものとみられる。

私は首をかしげた。実のところ、MSはずいぶん昔からShared Source Initiativeと銘打ち、Windowsなどのソースコードを「社外のソフ ト開発者らに公開」している。問題はライセンスがオープンソースではなかっ たり、NDAだのなんだのでガチガチに縛られていることであって、公開されてい ないことではない。なので、そんな話が今さら新聞に載るほど話題になるはず がない。唯一ニュースバリューが生じるとしたら、それはWindowsが(例えば最 近OSIにオープンソース・ライセンスとして認証されたMs-PL の下で)完全にオープンソース・ソフトウェアとして公開された、という場合であ る。だとしたら、それはものすごく大変なことだ。私は泡を 食って情報を集め始めた。

結果は言うまでもなく、全然そんな話ではなかったのである。MS のプレスリリースを見る限り、これはAPIやプロトコル関係の仕様資料を (パートナーだけではなく)一般にも公開し、オープンな標準やインターオペラ ビリティを重視した方向に舵を切るという話であって、そもそもsource codeと いう言葉自体リリース文中には出てこない。まあ、これはこれで 「オープンソース敵視を止める」という意味では確かに大きなMSの 方針転換ではあるのだが、それについては背景も含めて後でもう少し真面目に記事を書き下 ろすことにしたい。いずれにせよ、今回のMSの動きはWindows等のコードベースそのもののオープンソース化とは何の関係 もない。どう見ても朝日の記者の勘違いである。

ちなみに、前掲のアサヒ・コムの記事を今ご覧になった方はお分かりのように、 現在同じURLで公開されている記事は「マイクロソフト、ソフト情報の一部を公 開」というタイトルで、中身が違うものに差し替えられている。最初は私が寝 ぼけて見間違えていたのかとも思ったが、例えばこのブログの執筆時点(2/22 6:00AM)では、47news などに私が見たのとほぼ同じ文面で記事が載っている。おそらく元は共同通信の配信記事 で、朝日にしろ47newsにしろそれをそのままノーチェックで載せているのだろう。ちなみ に今手元に届いた(紙媒体の)朝日新聞の2月22日付朝刊12面には、差し替え前の記 事がそのまま載っている(ニューヨーク=丸石伸一記者との署名)。確認したい人は読んでみると良い。

それはそうと、今回の朝日の対応には疑問が残る。基本的に誤報なのだし、MSにも迷惑がかかる話だ。 それがいくら深夜とは言え数時間に渡ってウェブにも載り、なおかつ紙の新聞記事としても載ってしまっているのだから、朝日は単にウェブ記事を差し替えるだけではなく、訂正した旨きちんと一筆書き加えるべきだと私は思う。

最後に一言。私の睡眠時間を返してくれ。MIAUの連載記事も書かなければならんのに。

追記: 私自身は見ていないので何とも言えないのだが、今日の朝のテレビ報道のいくつか(朝刊記事をネタにニュースを紹介するようなもの)では、「Windowsのオープンソース化」を前提とした解説がされていたらしい(「設計図が公開されたことにより世界中の人々によって改良されてWindows互換OSが出来る」云々)。朝日もなんというか、罪作りなことをしたものだ。