オープンソースのグループウェアScalixが新バージョンでMicrosoft Exchangeに挑む

 コラボレーションプラットフォームScalixは、最新のバージョン11.4により、Microsoft Exchangeの置き換えを狙っている。2001年にHewlett-Packardが手放したOpenMailプラットフォームをベースに、Scalix社が開発を続けてきたこの製品は、今やオープンなAPIを使ってERP、CRM、請求決済支援といったシステムとの統合が可能な、企業向けのメールおよびグループウェアサーバとなっている。大半のLDAP認証メカニズムと互換性があり、WindowsのActive DirectoryやNovellのeDirectory、Red HatのDirectory Serverの認証に対応する。最も注目されるのがMicrosoft Exchangeとの互換機能であり、Outlookクライアントを使ってScalixプラットフォームにアクセスすることができる。また、ExchangeのOutlook Web Access(OWA)とほとんど同じAjaxベースのクライアントも用意されている。さらに、Outlookだけでなく、Exchangeによるほかの既存メールシステムとも問題なく共存できるという。

 5月にリリースされたScalixのバージョン11.4には、数々の新機能と改良が加えられている。Webベースのインタフェースは、テーマのカスタマイズ機能とオーバーレイカレンダーによって進化した。オーバーレイカレンダーは、複数ユーザの予定を日、週、月単位で同時に表示できるものだ。また、Firefox 3が正式にサポートされたほか、Scalixプロキシフォルダでデータフィード(RSSおよびATOM)が扱えるようになっている。オプションとして、Commtouchテクノロジを利用したスパム対策やリアルタイムスキャン対応のウイルス対策の機能も追加された。さらに、今回のバージョンから新たにCentOS 4および5がサポートされている。

 Scalixにはコミュニティ、スモールビジネス、エンタープライズ、ホスティングの4種類のエディションがあり、スタンダードおよびプレミアムの各ユーザ数、サポートのレベル、高度な追加機能の有無が異なる。スタンダードユーザとプレミアムユーザの違いは、前者がPOP/SMTP/IMAP、カレンダー、Webメールといった基本機能しか持たないのに対し、後者ではOutlookとScalixとの接続確立のような高度な機能も使えることだ。そのため、Scalixを本当にMicrosoft Exchangeの代わりとして使うなら、利用者の大半はプレミアムユーザとして登録しないといけない。確かにPostfixやSendmailといったメールサーバには、これらすべての機能は備わっていないが、オープンソースのその他のメールサーバには(Courier Mail Serverのように)Webメール環境に対応したものがある。また、著名なもう1つのコラボレーションスイート、ZimbraにもScalixと同じような機能が揃っているが、そのオープンソース版ではOutlookコネクタが利用できない。

 無料で使えるScalixコミュニティエディションでは、スタンダードユーザ数に制限はないがプレミアムのほうは最大10ユーザとなっている。また、ハイアベイラビリティ、スパム対策、ウイルス対策、Exchangeとの共存といった高度な機能やアドインはサポートされていない。一方、最上位のホスティングエディションは、マルチサーバサポートを含むすべての機能を備えているが、100名以上のプレミアムユーザが購入の条件となる。このように、必要なプレミアムユーザ数が適切なエディション選択の決め手になる。Scalixの各エディションの詳細については、同社による比較表を参照してほしい。

Scalixの導入

 インストールに関しては質の高いドキュメントや参考資料が豊富にあるので、依存関係と要件を満たしていれば簡単にScalixをインストールできる。インストールの前に、使っているLinuxディストリビューションがサポートされていることを確認する必要がある。Scalixのバージョン11.4は、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)4および5、CentOS 4および5、SUSE Linux Enterprise Server(SLES)4および5で動作する。Fedora 7とopenSuse 10.2もサポートされているが、どちらも実稼働環境でのScalixの実行には推奨されていない。これら2つのディストリビューションはそれぞれRed Hat Enterprise LinuxとSUSE Linux Enterprise Serverのコミュニティ版であり、こうしたエンタープライズ版の重要なパッチやアップデートが常にコミュニティ版で利用できるとは限らないからだ。また、基本インストール環境でメモリとディスクが1GBずつ要求されるほか、各ユーザのメールボックス用のディスク領域も必要になる。

 今回は、RHEL 5サーバーにコミュニティエディションと試用版のエンタープライズエディションをインストールした。インストールの途中、ネットワーク環境と依存関係の双方で問題が発生したが、それらをすべて解決したあとのインストールは順調に進んだ。

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インストール時のエラー

 意外だったのは、システムでSELinuxを有効にしているとインストールが中断され、SELinuxを無効にするかpermissiveモードにしてからインストールを続けるように勧められたことだ。実際、Scalixのインストール手順には、ファイアウォールは無効にしたほうがよいと書かれてはいるが、根っからのネットワーク管理者として、こうしたやり方には賛同できない。メールサーバが外部の脅威にさらされてしまうので、ファイアウォールの無効化は避けたいところだ。幸い、私の環境では、SELinuxだけを無効にしてファイアウォールは有効にしたままで問題なく作業を進めることができた。

 Apache、PostgreSQL、SendmailのインストールはScalixのインストール前に済ませておくことになっているが、Tomcatのインストールは必要に応じてScalixのインストール途中で行える。ただし、ここでインストールされるTomcatはScalix専用の特別版なので(Scalix社は標準版との違いを公表していない)、今後のTomcatのアップデートではScalixとの依存関係が問題になる。Sendmailに関していえば、セキュリティの点ではPostfixのほうが優れており、またScalixはPostfixとの連携性も公言しているのだから、インストール途中にPostfixを選択できるオプションも用意してもらいたかったところだ。

Scalixの設定と管理

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新規セッション

 Scalixのサービスは、インストールが済めばすぐに使える。インストール中に用意したユーザ名とパスワードを使って、Webメールのセッションを早速立ち上げてみた。Webメールクライアントは、AjaxベースでインタフェースがExchangeのOWAに似ているので、OWAユーザであればだれでも快適に使えるだろう。ScalixのWebメールおよびカレンダー機能はOWA相当だが、時刻を指定したメール送信やアポイントメントのスケジューリングといった柔軟性の高い機能はOWAにしかない。Webメールの動作確認にはIE7とFirefox 3を使ったが、どちらでも問題は起こらなかった。とはいえ、上級ユーザならWebクライアントの機能が豊富なOutlookをおそらく選ぶだろう。また、ScalixのWebメールでは、ユーザがログインしているときにSSLセッションにリダイレクトされない点がセキュリティ面で気になった。

 Outlook 2003を使ったScalixへの接続も試してみた。OutlookをScalixに接続するには、まずOutlookコネクタをクライアントにインストールする必要がある。多数のクライアントが存在する大規模なネットワーク向けに、このコネクタの導入の自動化について詳しく説明したガイドが用意されている。グループポリシーなどの方法を用いた自動化により、クライアントへの導入を簡単に済ませられるという。Outlookコネクタのインストールが済んだら、OutlookでScalix用のプロファイルを作成するだけで、メッセージの取得や予定表の設定をScalixと同期できるようになる。

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管理コンソール

 Scalixの管理コンソールを使えば、シンプルなインタフェース1つで各種設定を簡単に管理できる。また、Webメールとは違って接続には自動でSSLが使われる。この管理コンソールでは、サーバの設定の管理、キューの内容の表示、ユーザとメールボックスの作成、サービスの有効化/無効化、さらにはサービスおよびログによるScalixサーバの状態監視まで行える。Exchange上のすべての要素はScalixにも揃えられているが、管理コンソールそのものはExchangeよりもScalixのほうが少しシンプルに作られている。

 LDAPとの統合という点で、ScalixはActive Directoryとのすばらしい連携性を誇っている。Scalix Active Directory Extentions(スモールビジネス以上のエディションで利用可能)を使えば、Active DirectoryユーザとScalixの同期が簡単に行える。また、Active Directoryを使って、Scalixのユーザ、アカウント設定、メールボックスを作成したり、メールノードを設定したりすることも可能だ。

 全体的にScalixは、Exchangeと比べても、メールおよびグループウェアサーバとして十分な機能を果たしてくれる。だが、バックアップやリストアの操作は管理コンソールに組み込まれていないのでLinuxのコマンドラインから実行する必要があるなど、取り組むべき点はいくつかある。また、Scalixは既存のExchangeユーザを対象にしているため、Exchangeに慣れた管理者は、LinuxだけでなくTomcatやPostgreSQLといったテクノロジにも習熟する必要がある。

Exchangeの置き換えは可能か

 Scalixは、Exchangeと同等の機能がより安価に得られることを売りの1つにしている。しかし、Scalixの価格設定を見れば、エンタープライズエディションになると長期的にはExchangeのコストを上回りそうなことがわかる。導入初年度のコストはScalixのほうが低いのだが、プレミアムユーザ数の増加(Scalix Xandros Editionの場合、一度の取得で永続的に使えるプレミアムユーザ1人あたりのライセンス料が60ドル)や毎年のOSサブスクリプションコスト(Red Hatの場合、1,000ドル)、同じく毎年のパッチおよびアップデートのサブスクリプション契約(クライアント1台につき12ドル)、それにサポートコスト(メール関連のインシデント1件につき300ドル)を考慮すると、次年度以降にかかるScalixのコストはたやすくMicrosoft Exchangeを上回ってしまう。

 Exchange機能の代替となるメールおよびグループウェアソリューションを利用したいというユーザが少ない小規模な組織では、価格設定が変わらない限り、Scalixの採用は見送ったほうがよさそうだ。Scalixでサポートされているオープンソースのディストリビューションをベースとした環境が存在する場合は、システムの移行もOSのサブスクリプション費用も不要なので、Scalixの恩恵を受けることができる。また、既存のExchangeインフラストラクチャがあるのなら、Scalixの価格や追加機能に大きな変更がない限り、そのままExchangeを使い続けたほうがよいだろう。しかし、コミュニティエディションや試用版のエンタープライズエディションは無料なので、試して損はない。

Linux.com 原文